Der Traum

肩が大きく上下する
不規則な荒い息
頬を伝う大粒の汗
いや、涙かも知れない
見開かれた紫の瞳
その瞳が見つめるものは、黒く冷たい長い筒
その先に映る、誰かのアタマ
顔は見えない
こちらに気付いていないみたい
周りは何の音も聞こえない
静かすぎる
その所為か、自分の鼓動が大きく聞こえてくる
吐き気がするほどに
手が、震えている
――怖い
何故だか解からないけど
今まで何度となく"こなしてきた"ことなのに
――
震えが止まらない
それでも、その得体の知れない恐怖を振り払って
左の人差し指にグッと力を込める――


あぁ、また敵(ヒト)を殺るの……
刹那、"誰か"が振り返る
その顔は――


「――ッ」
目が、覚めた
「またか……」
酷く疲れた
睡眠は疲れを取る為の行為の筈なのに
――何度同じ夢を見たことだろう
十回?百回?いや、もっとかも
そんなこともう憶えていない
この仕事――狙撃兵って兵科に身を置いてから見るようになった、
誰かを狙っている夢
まったく、夢の中でまで人殺しをすることもなかろうに……


いつも標的(アイテ)はこちらを向いていなくて、引き金を引く瞬間に振り向く
「それが自分の顔だなんてね」


朝風呂はいい
寝汗も、嫌な気分もみんな洗い流してくれる
「……行くかな」
風呂に別れを告げて、"狩り"の準備
日々の祈りのように、毎日やってきたこと


目を瞑っては流石に無理だけど、一分あれば出撃(デ)られるわ


今日は前線での偵察が任務
ここのところ静かなものね
まぁ、今日みたいに一日中静かな時もあるし、目がまわるほど忙しい時だってある
今まで何人殺ったかって?
六七人よ
別に英雄なんかになる気は更々ないわ
なれるとも思えないし
でも――
敵を殺さなければ、自分が殺られる
それが「戦闘の本質」ってヤツだから
死ぬのが怖いとは思わないけど
でも死にたくない
どんなにクソみたいな毎日だろうと、一日でも長く生きていたい
生きていれば、無限の可能性を得られるもの――


だから私は、今日も人を殺す
明日を手に入れる為に――